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2025.06.12

イリオモテヤマネコの命を、未来へつなぐ ―― ねこねこ×Coony×やまねこパトロール スペシャル対談

2025.06.12

食パンやチーズケーキ、焼き菓子ギフトなど、日々の“食”のシーンをねこのかわいさで彩るブランド「ねこねこ」。

2022年に『ねこねこ食パン』『ねこねこチーズケーキ』『ねこねこファクトリー』の3ブランドを統合し、現在はオールハーツ・カンパニーが展開する「ねこねこ」として、ねこモチーフのデザインとともにワクワクや癒やしを感じられる商品をお届けしています。

2025年6月、そんな「ねこねこ」ブランドから新たに登場した季節限定商品「沖縄黒糖のブラウにゃー」。
そのパッケージには、沖縄県・西表島にのみ生息し、絶滅危惧種に指定されている「イリオモテヤマネコ」が描かれています。

この特別な企画に込められたのは、「かわいい」だけで終わらない、“命を守る”というメッセージ。
パッケージイラストを手がけたのは、猫専門イラストレーターとして「ねこねこ」の数々の商品を彩ってきたCoony(クーニー)さん。
そして、実際に西表島でイリオモテヤマネコの保護活動に携わる、「やまねこパトロール」の高山さん。
このコラボの背景と想いを語るため、株式会社オールハーツ・カンパニーの「ねこねこ」企画担当である吉田茉帆が加わり、今回の特別対談が実現しました。

それぞれの立場から語られる「命を守る」という共通の想い。
この商品が、未来へつながるきっかけになることを願って。


▲株式会社オールハーツ・カンパニー 吉田(左)、 やまねこパトロール 高山さん(中央)、猫専門イラストレーター Coonyさん(右)

 

イリオモテヤマネコと未来をつなぐ行動

吉田  「イリオモテヤマネコ」とはどういった猫なのでしょうか。

高山  沖縄県の西表島を唯一の生息地とする野生動物で、ベンガルヤマネコの亜種とされています。
推定生息数は100頭前後といわれており、環境省レッドリストでは「近い将来における野生での絶滅の可能性が極めて高い」とされる「絶滅危惧ⅠA類」に指定されています。
外見の特徴としては、顔に黒い縞模様、体に斑点状の模様が見られます。生息数が非常に限られており、その希少性から保護活動が継続的に行われています。

吉田  そのような貴重な動物を守る活動に、どのようなきっかけで関わるようになったのでしょうか。

高山  2011年に千葉県から西表島に移住して、カヌーガイドとして働き始めました。その頃、先輩ガイドで写真家である村田自然塾の村田行さんから「イリオモテヤマネコの交通事故防止活動に参加してみないか」と誘われて行ったのが、トラ・ゾウ保護基金が始めた「やまねこパトロール」との出会いでした。
当初は本部の東京主導で行っていた活動でしたが、地元の人たちが主体となって活動した方が良いということで、イリオモテヤマネコ発見50周年である2015年に「JTEF西表島支部やまねこパトロール」の事務所ができ、事務局として働き始めることになりました。

吉田  地元の方々が中心となって取り組むことで、より深く地域に根ざした活動になっていったんですね。
「やまねこパトロール」では、具体的にどのような活動を行っていらっしゃるのでしょうか。

高山  近年、西表島では交通量の増加により、イリオモテヤマネコの交通事故、いわゆる“ロードキル”の発生が深刻な問題となっています。そのため当団体では、イリオモテヤマネコを交通事故から守ることを目的に、夜間の道路パトロールを実施しています。
また、ドライバーの方々への注意喚起や、ヤマネコが路上に出てきてしまう原因のひとつである小動物の死骸の除去、さらには地元の小中学校で環境教育の一環として授業を行うなど、多角的な保護活動に取り組んでいます。


▲夜間パトロールの様子


▲イリオモテヤマネコの交通事故防止を呼びかける地元学生の啓発活動の様子


▲小中学生に向けた野外授業の様子

吉田  イリオモテヤマネコを守るために、現地では本当に多面的な取り組みが行われているのですね。
今回の商品企画でも、その想いをどのように伝えていくかがとても重要なテーマでした。
そうした中で、ビジュアル面での伝達を担ってくださったのが、イラストレーターのCoonyさんです。

 

パッケージイラストに込めた想い

吉田  私たちは、Coonyさんとのご縁をきっかけに、やまねこパトロールさんと今回の企画をご一緒させていただくことになりました。
そもそも、Coonyさんがこの活動を知ったきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。

Coony もともと私は猫が大好きで、イリオモテヤマネコの存在も以前から知っていました。
そんな中、ある年の忘年会でたまたま石垣島行きのチケットが当たりまして(笑)、せっかくなので西表島にも足を延ばしてみたんです。実際に訪れてみると、本当に自然豊かで魅力的な場所で、すっかり惹かれてしまって。その後も何度か訪れるようになりました。
3回目に訪れたときに、たまたまイリオモテヤマネコに関するイベントが開催されていて、そこで高山さんにお会いしました。活動の詳しいお話を伺ううちに、自分も何かできることがあればと思い、夜間のパトロールにも参加させていただくことになったんです。
それ以来、ご縁が続いて今に至ります。

高山  Coonyさんと出会ったのは、4月15日の「イリオモテヤマネコの日」に環境省の野生生物保護センターで開催された「子ども解説員」という取り組みでした。イリオモテヤマネコについて学んだ小学校の児童たちが、センターを訪れた観光客の皆さんにイリオモテヤマネコの解説を行うというものです。
とても熱心に話を聞いている方がいるなぁと思っていたら、その方がCoonyさんでした。イベントの後には、解説員を務めた児童の皆さんに渡してくださいと、イリオモテヤマネコステッカーを送ってくださって。今でも貼らずに大切にとっているという子もいるんです。
Coonyさんのように、イベントに立ち寄ってくださった方が、こうして長く関わってくださるのはとても嬉しいです。

吉田  そうだったんですね。偶然の出会いから、こうして活動の輪が広がっていくのは本当に素敵なことですね。そして、Coonyさんが私たちとやまねこパトロールさんとのご縁をつないでくださったことに、あらためて感謝いたします。
Coonyさんには、これまでにも「ねこねこ」のさまざまな商品イラストを手がけていただきましたが、今回イリオモテヤマネコをテーマに描くことになった際、どのような想いでイラスト制作に臨まれましたでしょうか。

Coony 実は今回の企画の前に、個人で「やまねこパトロール」さんへの寄付つきTシャツを作っていたことがあって、その頃からイリオモテヤマネコには関心を持っていました。
私のイラストを応援してくださっている方って、保護猫への寄付に賛同してくださる方、猫を飼っている方、猫好きな方が多いんです。
なので、「かわいいから買った」というシンプルな行動が、そのまま自然保護や寄付につながるような仕組みにできたらいいなという気持ちを込めながら描いていました。
今回、現地を訪れて初めて、偶然にも“生きている”ヤマネコに出会うことができました。それまでは実際に見たことがなかったので、資料をたくさん見ながら、想像力で補いながら制作しました。

吉田  イリオモテヤマネコは“野生の猫”ですが、かわいらしさと同時に、どこか神秘的な雰囲気もありますよね。
そんなイリオモテヤマネコが平穏に暮らせるようにという思いも込めて、顎をちょこんとのせている姿と大きなあくびをしている姿の2パターンで安らいでいる様子を表現いただきましたが、今回制作いただくにあたって、特に意識されたことやこだわったポイントがあれば教えていただけますか。

Coony イエネコと比べて骨格も違いますし、やっぱり“野生”の強さみたいなものがあるので、「あれ?いつもの猫とちょっと違うな」って、見てすぐに感じてもらえるように意識しました。
ただ、今回のテーマが「のんびりしたイリオモテヤマネコ」だったので、野生っぽさを出しすぎると怖くなっちゃうし、そのバランスが難しかったですね。
のんびりしている時のヤマネコって、どんなふうなんだろう…とイメージを膨らませながら、表情や仕草を工夫して描きました。

吉田  のんびりと安らいでいる様子というリクエストに合わせて、表情や仕草をとても柔らかく表現していただいたことで、見る人にも親しみやすく、でもどこか神秘的な印象も感じられる、とても絶妙なバランスになっていると思います。本当にありがとうございます。
あらためて、Coonyさんの描かれる猫のイラストには、単なるかわいらしさにとどまらない、猫本来のリアルな魅力が表現されているなあと思いました。そのリアルさがあるからこそ、今回のように「命を守る」というテーマにも、しっかりと説得力を持たせていただけたと感じています。

 

西表島の小さな命を守るために

吉田  私自身、今回の企画にあたり西表島に初めて訪問させていただいたのですが、島のいたるところにヤマネコをモチーフにした看板や標識、アートがあって、島全体でイリオモテヤマネコを守ろうという意識が根付いているのを強く感じました。


▲国指定特別天然記念物登録記念に建てられたイリオモテヤマネコの銅像


▲ンママキーやまねこパークの巨大イリオモテヤマネコすべり台


▲イリオモテヤマネコの形をした街路樹「キャットロード」


▲「とびだし注意」の標識

吉田  実際に、観光客や地元の方々の意識の変化などは感じていらっしゃいますか。

高山  私たちが特に力を入れているのがロードキル(交通事故)の防止なのですが、これはイリオモテヤマネコの命を脅かす最も大きな課題のひとつです。
最初に交通事故が確認されたのは1978年で、それ以降、これまでに101件の事故が記録されています。それ以前の1977年までは西表島にほとんど道路がなかったため、事故は確認されていませんでした。
特に2000年代以降、道路の拡幅工事が進んだことや、交通量が増加した影響もあり、交通事故が増加傾向にありましたが、この10年間交通マナーは年々向上しており、夜間走行している車の平均速度は年々低下しています。ここ2年ほどはイリオモテヤマネコの交通事故は発生しておらず、今日でなんと888日間連続で事故0を達成しています(2025年5月29日時点)。初めてイリオモテヤマネコの交通事故が発生した1978年以来、2年以上無事故が続くというのは、これまでなかったことです。
イリオモテヤマネコを意識した安全運転が西表島に定着してきている証だと思いますし、そうした変化が実際に数字として表れてきているのは、本当に嬉しいことです。

吉田  数字で見ると、意識の変化の大きさがより実感できますね。
では、西表島を訪れる観光客の方々に対して、何か心がけてほしいことや、お願いしたいことはございますか。

高山  イリオモテヤマネコは西表島の全域に生息していますし、どこでも道路に出てくる可能性があります。
カンムリワシやセマルハコガメなどの生物も頻繁に路上に出てきますので、車を運転をされる際には野生動物の飛び出しを意識し、制限速度40㎞/hを守って運転していただきたいということが第一です。
また、万が一イリオモテヤマネコを目にする機会があったとしても、彼らの自然な行動を妨げないでほしいです。過度な接近や餌付けは、野生動物として生きていく力を奪ってしまう「人馴れ」にもつながりますし、「人馴れ」は交通事故にも直結してしまいます。
観光で訪れる一人ひとりの行動が、彼らの未来を左右することにつながるということを意識していただきたいです。

吉田  私たちも、そうした大切な活動に少しでもお力添えできればという思いから、今回発売する「沖縄黒糖のブラウにゃー」の売上の一部をやまねこパトロールさんへ寄付させていただくことにいたしました。
この寄付が、夜間パトロールの人件費やガソリン代といった現場で必要とされている費用に役立てていただければ幸いです。
小さな一歩ではありますが、この取り組みを通じて、より多くの方にイリオモテヤマネコの現状と保護の必要性を知っていただくきっかけになればと願っております。

高山  こうして企業やクリエイターの皆さんと一緒に取り組める機会は、本当にありがたいことです。
特に今回のように、商品を通じてイリオモテヤマネコの存在や、その保護の重要性を伝えていただけることは、私たちにとって大きな力になります。
イリオモテヤマネコの未来を守るためには、地域の取り組みだけでなく、外から関心を持ってくださる方々の存在が欠かせません。
このパッケージをきっかけに、多くの方がヤマネコに目を向け、想いを寄せてくださることを心から願っています。

Coony このパッケージイラストが、イリオモテヤマネコの存在を知っていただくきっかけになれば、とても嬉しいです。
絶滅の危機にあるこの小さな命を未来へつなげていくためには、私たち一人ひとりの意識と行動が何より大切だと思っています。
イラストという表現を通じて、イリオモテヤマネコの魅力や大切さ、そして「守りたい」という気持ちが少しでも伝わっていたら幸いです。

吉田  今回の企画は、ただのパッケージデザインではなく、「伝えること」「つなぐこと」に重きを置いた取り組みでもありました。Coonyさんのイラスト、高山さんの活動、それぞれの想いが重なり合って、ようやくひとつの形になったと感じています。
この商品を手に取ってくださった方が、イリオモテヤマネコの存在に目を向け、「守る」ことの一歩を一緒に踏み出してくださることを願っています。
この度は貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。これからも、ひとつひとつの出会いを大切にしながら、それぞれの場所で想いをつないでいけたらと思います。

 

「沖縄黒糖のブラウにゃー」の商品情報は<こちら

 

プロフィール


Coony(クーニー)
猫専門イラストレーター

福島県生まれ、多摩美術大学卒業。
「ねこねこ」のアンバサダーとして「NEKO NEKO WINTER HOLIDAYS」をはじめ、数多くの商品のデザインを手がける。


高山 雄介
西表島支部やまねこパトロール事務局長

野生動物保護のために活動する NPO「JTEF トラ・ゾウ保護基金」の西表島支部とし活動を展開する「やまねこパトロール」の事務局長。
沖縄県・西表島に生息している「イリオモテヤマネコ」の生息地保全や交通事故問題に取り組む。


吉田 茉帆
株式会社オールハーツ・カンパニー 商品企画室

2021年に株式会社オールハーツ・カンパニーに入社。
ねこねこブランド(ねこねこ食パン・ねこねこチーズケーキ)の商品企画、店舗施策を手がける。